現クールで放映されている「輪るピングドラム」を観ている。
全24話が予定されているらしいが、現時点では、まだ4話が終わったところである。
現時点では、まだ、全体を語れるような段階ではないが、日常空間が突然、演劇的な異空間に変わるその豹変インパクトが凄い。
3人兄弟(双子の兄と妹)の、妹(本当は死んだはず)がペンギンの帽子を被った途端に、別人格になり、二人の兄に向ってこう言い放つのだ。
「きっと何者にもなれないお前達に告げる」
僕は先日、僕が違和感を感じたシンジ的悩みについてもう少し詳しく書いてみた」というエントリーで、「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公・碇シンジの特権的なポジションは、2011年には既にリアリティを失っているのではないか、というようなことを書いたのだが、一方で、「輪るピングドラム」が持つ、登場人物達に対する、このユーモラスではあるが残酷な観点こそ、極めて2011年的ではないのかと、直感的に感じた。
それゆえに、僕は、このアニメの展開を期待しているのである。
さて、この「輪るピングドラム」であるが、監督を務めるのは、ちょうど、「新世紀エヴァンゲリオン」の劇場版(春エヴァ)公開中に放映された「少女革命ウテナ」の監督を務めた幾原邦彦さんである。しかも、「輪るピングドラム」は、「少女革命ウテナ」の劇場版として1999年に公開された「【劇場版】少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」以来の監督作品なのだ。
ということは、「少女革命ウテナ」と「輪るピングドラム」との落差が、逆説的に、間に挟まったゼロ年代の意味を、浮き彫りにしてくれるのではないだろうか。
そんな期待もあって、僕は「少女革命ウテナ」を観ようと思ったのである。
しかし、テレビシリーズは全39話もあった。エヴァ全26話完観で相当磨り減ったばかりの僕は、躊躇してしまった。
そして、とりあえず、劇場版を観ることにしたのである。(このあたりの非力さはご容赦下さい。)
ということで、話は「【劇場版】少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」の内容に進む。
正直言って、僕はこのアニメにおける「エヴァ」にも勝るとも劣らないテンションの高さに参ってしまった。
セリフ、人間関係、そして絵はまるで70年代のベルサイユの薔薇、あるいは宝塚歌劇団的世界!
しかも、極論するならば、80分余り、全てが山場!
そして、そのテンションの高さには細かいところなどどうでもよくなってしまうほどの迫力!
最後のほうには、主人公のウテナという少女が突然、自動車になって(最終的にはバイクになって)しまい、姫宮アンシーが運転し、彼女達が暮らす全寮制の鳳学園を脱出するという荒唐無稽な展開は圧巻だ。
そしてその出口でそれを阻もうとする鳳暁生(学園理事長)との口論となる。
その時の出色の掛け合いが以下である。
アンシー:お兄様;;?
鳳暁生:そうだよ、お前の王子様だ。
怖がらなくても大丈夫だ。さぁ僕と一緒に帰ろう。
生きながら死んでいられる、あの閉じた世界へ。
アンシー:かわいそうに。あなたはあの世界でしか王子様でいられないのね。
でも、私は、ウテナは出るわ、外の世界へ。
鳳暁生:よせ、どうせお前達が行き着くのは世界の果てだ。
アンシー:そうかもしれない。でも、自分達の意思でそこに行けるんだわ。
さようなら、私の王子様。
鳳暁生:そうか、残念だな。だが、お前達には、やはりあの世界でお姫様を続けてもらうよ。
なに、生きながら死んでいればいいだけのことさ。
(アンシーがここで、ウテナが変身したバイクの速度を上げる)
アンシー:世界よ~、革命する力を~
なんというハイテンションであろうか...
ここでの口論は、「終わりなき日常」とそこからの超越という日本の世紀末がかかえたテーマのメタファーとして捉えることも出来るかもしれない。
あるいは、寺山修司の影響を受けたという監督・幾原さんのことだ。60年代の全共闘の合言葉「書を捨て町へ出よう」へのオマージュとも読み取れるかもしれない。
さらには、80年代のポストモダンの核である、外部への逃走思想のアニメ的具象化という可能性だって無いことはないだろう。
しかし、このシーン、そして、実はこのアニメ全編で発せられる様々な、けれん味たっぷりの言葉達に対して、僕は敢えて、深層が無い(表層的な)作品であったとして、とりあえずは捉えておきたい。
同じ90年代の後半に、全てが深層(意味)への誘いに満ちた「新世紀エヴァンゲリオン」の対極として、全てを表層的な滑走に身をまかせた「少女革命ウテナ」という作品が存在したこと、そして、それが、ゼロ年代アニメの一つの可能性であったということを記しておきたいのである。
そして、この「少女革命ウテナ」の意味(あるいは無意味)が、この後のゼロ年代を経て、どのように変容したのか、それを「輪るピングドラム」を観終わった時点で想像してみたい。
僕はいま、そんなことを考えているのである。
まさむね
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