80年代以降のニッポンのプロレス界と思想界の共通点

80年代のプロレスは暗黙の了解(村松友視)の限界を見極めた上で、≪外部≫に出ようとする≪内部≫の物語だったが、それは必然的に、プロレス史を加速させ、やがて来るプロレスの死を内包した残酷な物語だったのである。

同じく、80年代の現代思想界におけるニューアカカルテットの4人、浅田彰、中沢新一、柄谷行人、蓮實重彦がそれぞれの角度から≪内部≫から≪外部≫へというテーマで格闘しながら(※1)も、パフォーマーとしては結果的にはバブルの消費社会のイデオローグとなり、自分達が安住していた場所を壊すような問題提起をするだけで終わってしまい、最終的には「ニッポンの思想」自体を死に追いやってしまったということとどこか似ているように思える。
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そして、長州力が猪木の引力圏から飛び出て馬場の引力圏へ突入したはいいが結局は、生まれた川に帰ってくる鮭のごとくに、猪木の元に戻ってしまい、同じく猪木から離れて新しいプロレスを標榜したUFWが、リアルな≪外部≫の格闘技と接触するに及んで無残な姿をさらすことによって、「プロレスとはやっぱり≪内部≫の物語であったのね。」ということを露呈してしまい、他方、大仁田の成功が多団体時代を生み出し、さらに、猪木の引退、馬場の死によって、馬場VS猪木という大きな物語が崩壊し、それはプロレス史をも終焉させてしまうという最悪の事態が連続して起きたのが80年代末期から90年代のプロレスであった。

一方、思想界は、机上の空論よりも、目の前に起きるリアルな現象(天皇の死、ソ連の崩壊、連続幼女殺害事件、湾岸戦争、神戸淡路大地震、オウム事件、サカキバラ事件、金融ショック等)を読み解くような人々、宮台真司、福田和也、大塚英志といったジャーナリスティックな思想家が次々と「現況解説書」を発表する。それは、好むと好まざるとに関わらず、「歴史の終焉」後のまったりとした不気味な日常、「虚無としての日本」、あるいは背後にあったはずの大きな世界観の不在(※2)を、それぞれが肯定せざるをえないという不透明で忸怩たるジレンマをかかえていた。
それが「ニッポンの思想」の90年代であった。
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ゼロ年代のプロレスは、馬場の死後、大きなパワーも方向性をも失ったさながら難破船のような状態が続いている。80年代、90年代の遺産だけで食いつなぐプロレス界、その至宝・三沢光晴をもその末期に失ってしまった...(※3)

一方で、このゼロ年代に思想界に登場してくるのが、東浩紀である。このゼロ年代は、思想界においては、東浩紀の一人勝ち時代である。そして、実は、これは単純な話、東浩紀の著書のみがビジネス的に成功したからである。元々、浅田彰の強烈な褒め言葉(比喩的に言えば浅田彰からの禅譲)によって世に出た東浩紀、彼はゼロ年代の前半の小泉構造改革の時代の「勝ち組/負け組」を峻別するような風潮の中で、売れれば勝ちという思想の新たなるルールの設定に自ら成功し勝利した...かのように見えた。
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僕の考えだと「ニッポンのプロレス」は、1999年のジャイアント馬場の死によって終わってしまった。しかし、ゼロ年代、「ニッポンの思想」は、東浩紀という「スター」の登場によって、プロレスよりも数年長生きした。しかし、思想界のテン年代の展望は暗い。スターの数を数えてみても、80年代=4人、90年代=3人、ゼロ年代=1人、そしてテン年代は...。

これからどうなるのでか、ある意味、楽しみである。

まさむね

(※1)浅田彰は、ドゥルーズ=ガタリを援用しつつ、≪外部≫への「逃走」を生き方のメッセージとして投げかけた。中沢新一は、≪外部≫への出方として意識の働きに重点を置いた。蓮實重彦は、「凡庸」にからめ取られないように振舞いながら、「愚鈍」を感じ取ることを≪外部≫への道として示した。また、≪内部≫は、その形式化を推し進めると必然的に≪外部≫に開かざるを得ないと主張したのが柄谷行人である。

(※2)宮台真司の「終わりなき日常を生きろ」、福田和也の「日本の家郷」、大塚英志の「物語消費論」の大筋を僕はこう解釈したが、「ニッポンの思想」の著者・佐々木氏も似たような見解のようだ。

(※3)「今改めて眺めるプロレス衰退史」参照の事。

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