部屋の隅にあるエンプティボックスを持って行きなさい

かつて、プロレスジャーナリストの斉藤文彦さんが「すべてのことはプロレスから学んだ」と語っていたが、僕もプロレスから学んだことは沢山ある。
最近、時々、こんな話を思い出す。
ターザン山本氏のコラムだったと思うが、往年の名レスラー、ニック・ボックウィンクルが子供の頃、父親に反抗して家出をしたときの話だ。

父親は家を出ようとするニック少年に言ったという。

「そこの部屋の隅にあるエンプティボックス(目に見えない空の箱)を持って行きなさい。」

その時、ニック少年はそれが何のことかわからなかった。
部屋の隅にはそんな箱など、どこにもなかったからだ。
親父、何を言ってるんだ、変なことをいうな、くらいに思ってそのまま家を出たという。
しかし、ニックの心の中には、ずっとそのエンプティボックスは残り続けた、謎として...
そして少年は歳を経て、やがて大人になり、いつしか、自分も子供を持つような年齢になる。
そうして、ようやく、父親が少年だった自分に持っていけと言ったそのエンプティボックスとは何だったのかがわかるようになったというのだ。

コラムはここで終わっていた、と思う。
手元にその本がないので細かいところは違っているかもしれないけど、確かそんな感じの話だった。

サンテクジュベリの「星の王子様」ではないが、大人になると見えなくなるものは沢山ある。
しかし、逆に大人にしか見えないものもあるのだ。
僕はここ数年、そのことが少しずつわかってきた。
40代後半になって、そして50歳を目前にして、僕もようやく大人になりかけたということだろうか。

会社という組織にいると、会社を辞める人、入ってくる人、沢山の人に出会い、そしてまた別れるということを繰り返す。
さすがに、恥ずかしくて口には出さないが、会社を辞めたいという若者を前にして、僕もニックの親父さんと同じように「辞めるのはかまわないけど、そこのエンプティボックスを持っていきな。」と心の中でつぶやく。

心の中でつぶやくだけだから、当然、相手には伝わらないが、僕は夢想するのだ、若者の中にそのエンプティボックスが何らかの形で残り続けることを、そして、彼が歳をとって、僕と同じような立場になった時に、また次世代の若者にエンプティボックスを持っていかせることを...

まさむね

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